ホテルの"風格"
湯布院の「亀の井荘」のゆったりした屋敷の宿で、当主の中谷健太郎さんと久しぶりに夕食を共にした。講演会では一緒になるが、こういうひとときを持つのは10数年ぶりのことである。
ポツリと彼が言う。「原点は20数年前、お金がなくてドイツでホームステイしながら貧乏旅行をした、あれですね」。学に妙薬なし、お仕着せでない貧乏旅行をしてみれば、人は何を求めて旅に出るのか、せつないほどに分かるものである。
また言う。「出過ぎない、節度あるサービス。なんでも知っていながら、その客が何を求めているのかを心得て、自分のアイデンティティでもって相手をする、そういうバーテンダーのことを考えています」と、なぜか彼が大好きという山形の枝豆をつまみながら。いいホテルには勝れたコンシェルジュ(相談役)がいる。これが風格だ。
(嶽) (2002年 大阪新聞より)
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