秘湯の一軒宿

 こんな時代だからこそはやっているのは、玄関先までバスが横付けになる巨大温泉旅館でなくて、ちょっと歩かないといけないような秘湯の一軒宿である。大自然のなかで、人知れず湧出しているようないで湯を持つ、落ち着いた和風の一軒宿は、次第に減少しているとはいうものの、全国各地にはまだまだある。北海道、東北地方、九州などに多い。
 そういうところの秘湯はおしなべて好調で「あまり大きい声ではいえませんが、有史以来の繁盛で、笑いが止まりません」と口々にいう。
 かつては団体貸し切りバスが何台入るかが取りざたされたものだが、秘湯の中でも格別好評なのは、せいぜい20室そこそこの「小さい宿」である。調理も含めて家族でやっている。企業というより家業だ。目の届く範囲でキメ細かくもてなすことが、結局リピートにつながっている。時代は変わった。

     (嶽)   (2000年 大阪新聞より)

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